Cat of AZ

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すずめの戸締まり 感想

「すずめの戸締まり」を見ました。感想を書きます。

すずめの戸締まり

以下、ネタバレを含みます。

新海誠 最新作

新海誠監督の最新作ということで、一切のネタバレ、感想によるバイアスを排除するため、公開初日に劇場へ行きました。

「すずめの戸締まり」という作品は、多くの人にとって新海誠というクリエイターの文脈、作家性を紡ぐ1ページであるように、 自分にとってもこれまでの新海誠を抜きにして語ることのできない作品です。

というわけで、今回もそういう感じの感想になることをご容赦ください。

君の名は。」「天気の子」の次

君の名は。 - Cat of AZ

天気の子、いろいろな感想 - Cat of AZ

君の名は。」には壮大でSFギミックなストーリーと魅力的なヒロインに加え、これまでの新海誠シリーズの常識を覆すラストという衝撃があり、

これ以上は何をやるのか?のファンの期待と不安のハードルを、00年代の美少女AVGのコンテキストを全開フルスロットルに盛り込んで大衆エンタメとして一線を越えたのが「天気の子」でした。

この流れがあって、前回よりもさらにハードルが上がったのが今作「すずめの戸締まり」であり、 「天気の子」がドンピシャで刺さった人ほど素直に良いと評価するのが難しそうな、そういう作品でした。めんどくさいオタクでごめんなさい。

子供時代の喪失をどう取り戻すか

これまでの新海誠作品はずっと一貫して「青春との戦い」がテーマの中心にありました。 青春とは主に10代の思春期の多感な時期であり、現実への無力感、喪失感を強く感じる年代で、上は「言の葉の庭」「秒速5センチメートル」で20代、若くとも「桜花抄(短編)」「星を追う子ども」の10歳前後でした。

それが今回は4歳です。「星を追う子ども」よりもずっと若く、青春というより幼少期、子供時代の喪失です。 この作品の一つの挑戦だったのではないかと思います。

現代の高校2年生の鈴芽にとっての草太を喪失するストーリーでもあるし、育ての親である叔母の青春の喪失についても描かれますが、 あくまでメインテーマは4歳の少女にとっての母親の喪失とどう向き合うのか、でした。

ただ、この挑戦的なテーマは、結構わかりにくいのではないかと思いました。

旅の道中にお世話になる愛媛のみかん農家や、神戸の店のママは、鈴芽が他の家庭の母親と触れ合い、喪失を描くためのシーンだと思うんですが、 このテーマを認識していないと狙いがわかりにくいように思いました。し、この解釈も合っているのやら、自信がありません。

青春の喪失として草太を取り戻すストーリーをメインテーマと解釈しても、草太との交流、想いを深めていく描写が少なく物足りなさがありますし、 草太が形見のイスになったことで形見への想いを深めていく物語だとしても、実の母親との思い出の描写の少なさは感じました。 例えば鈴芽が憧れる看護師として母の描写があれば、4歳の喪失というテーマにもっと焦点が当たったのではないかと思います。

とか言いながら、まぁ、泣きましたけどね。

美少女AVGコンテキストと大震災

「天気の子」ほどではないにせよ、00年代の美少女AVGコンテキストは今回もありました。

鍵というはっきりとしたメタファー、主人公(草太)が人ではなくなる、育ての母親との複雑な距離感というのは、具体的な作品名は上げませんがエロゲ的なエッセンスが存分に盛り込まれていて、懐かしさと既視感がありました。

一方で、東日本大震災という現実の震災を扱うにあたり、この美少女AVGコンテキストは相性が悪いのではないかとも思うのですよね。

美少女AVGにおいて、ヒロインが死んで悲しい、泣ける、というのはフィクションだから受け入れられて、フィクションだからこそ積極的に感情移入していこうという気持ちが働くものですが、

現実の震災が対象になると震災の被害者が実在するので、そこに感情移入しにいっていいのか?はセンシティブな問題として難しく、表現や感情を間違えると不謹慎にもなりかねないので、非常に慎重になります。

震災で母親を亡くした4歳の少女の気持ちを、これで理解した気持ちになっていいのか?消費していいのか?という理性的なブレーキが頭の片隅にあって、感情移入のギアを上げきれませんでした。

とは言いながら、まぁ、泣きました。

おわりに

前回の「天気の子」の特色を自身の作風として記号化して取り入れながらも、これまでのお家芸をしっかり踏襲しつつ、新たな領域への挑戦も忘れない意欲的な最新作でした。

ただ、気になるところは気になり、「天気の子」で上がりきったハードルを超えるには至らなかった、というのが正直な感想です。

まぁ、ラストでしっかり泣きましたけどね。今回も素晴らしい作品をありがとうございました。